キネマ探偵団 シーブン:突貫小僧を探せ!



突貫小僧を探せ!

當間 早志

tokkankozoA-1.jpg “突貫小僧” とは、戦前の松竹映画で大活躍した名子役の芸名。ココのページでも紹介している通り、「シネマラボ 突貫小僧」の名称は、その名から頂いている。

本名は青木富夫。
6歳の頃に自宅近所の松竹蒲田の撮影所で遊んでいたところを小津安二郎監督にスカウトされ、小津の『会社員生活』( '29)で映画デビューしている。2本目に出演した『突貫小僧』( '29/小津監督)が大ヒットしたため、次第に「突貫小僧」という名称で呼ばれるようになり、映画でもその名でクレジットに表記されることが定着。
戦前は、小津以外にも、斎藤寅次郎、成瀬巳喜男、清水宏など、名監督の作品に数多く出演し、子役の大スターとして多くの映画ファンから親しまれたそうだ。“爆弾小僧” や “アメリカ小僧” といった彼の二番煎じの子役がすぐ後から登場していることからも、その人気の凄さがうかがえるだろう。
もう、“子役” とは呼べなくなってきた '39年の中頃から、芸名を本名の青木富夫に戻して活動を続けるが、'42年に軍隊へ召集され、しばらく銀幕から遠ざかっている。
'46年に復員し、数年後には映画界にも復帰。
'52年の『こんな私じゃなかったに』から、川島監督作品にも出演するようになる。兵役による長年の隔たりのせいか、かつてのスター性に翳りが見え始め、戦後は大部屋俳優のようなチョイ役の出演が多くなった。
それでも250本以上の作品に出演し、突貫小僧ファンの間では「突貫探し」や「青木探し」などと称して、彼が出演している映画の中でその姿を探す楽しみを持つ者も多い。かくいう僕もその1人である。
今のところ、川島作品には7作品に出演したことが分かっている。

▼ 突貫小僧(青木富夫)が出ている川島作品 ▼

こんな私じゃなかったに  1952年 松竹大船

前半に出演するらしい。

明日は月給日  1952年 松竹大船

出演していることは確認できているが、何役かは不明。

愛のお荷物  1955年 日活

赤線地帯を視察に来た政治家たちを案内する赤線の組合長役として出演。セリフも結構ある。この作品は 『レトロスペクティブ』で上映。

あした来る人  1955年 日活

TokkanwoSagase03.jpg三國連太郎演じる男が汽車に乗り込んだ時に登場する車掌役。ほんのちょい役だが、二度登場する。

銀座二十四帖  1955年 日活

キャバレー「オペラ」の従業員役で出演。

洲崎パラダイス 赤信号  1956年 日活

氷屋役として出演。この作品は『レトロスペクティブ』で上映。

幕末太陽傳  1957年 日活

TokkanwoSagase04-A.jpg  ↑上のカットの青木富夫↓遊郭で働く若衆の一人として出演。
かなり出番が多く、「突貫探し」が充分に楽しめる。

その中の一つ、女郎のこはる(南田洋子)とおそめ(左幸子)が取っ組み合いの大げんかをする名シーンでは、その仲裁に入ろうとして逆に吹っ飛ばされる役を演じている。ちょいとした役でも映画の重要な部分に関わっていると、突貫小僧ファンにとっては嬉しい限りなのだ。


TokkanwoSagase04-B.jpg

突貫小僧による突貫小僧のインタビューより

突貫小僧 インタビューに答える青木富夫さん 川島監督が松竹から日活に移籍した '54年に、青木富夫さん(突貫小僧)も彼に付いていくように日活へ移籍している。

'02年にシネマラボ突貫小僧が青木さんにインタビューした際、日活へ移籍した経緯について語って下さったので、以下にその一部を載録する。

青木:
川島さん(※1)が日活行くっつうんで、新宿の “ととや” という店で友達5人で送別会やったの。もうガボガボ飲んじゃって、みんなで酔っぱらってね。
その中に高友子(※2)という女優がいたんですよ。彼女がねぇ、日活行きたいって言い出したの。
お富さん、ちょっと川島さんにお願いしてよ…って言うんだよ。
俺も酔っぱらってるから、おぅ!まかしとけ!なんて返事しちゃってさぁ、川島さんに頼んじゃったの。そしたらねぇ、ハンコ持って日比谷の日活まで来いって言うの。
てっきり彼女の保証人だと思ってさぁ、自分のハンコ持って日比谷まで行ったの。
そしたらみんなは(送別会にいた人たち)、お前ェの契約書もできてるから日活に行けって。他の4人は契約済んだって言うんだよ(笑)。
それは困る、と俺は言ったんだけどね。まずは契約書を読めって言われて読んだら、これがいいんだなぁ…金が(笑)。
行きます、行きます、ってすぐに契約したよ(笑)。

(2002年2月17日 那覇市民会館にて)



※1…川島監督のことを助監督時代から知っている青木さんは、川島監督のことを「監督」や
「先生」といった敬称で呼ぶことができず、「川島さん」と呼んでいたそうだ。

※2…川島作品には『愛のお荷物』『わが町』などに出演している。