キネマ探偵団 ぼくとグラマと具良間島 PAGE.2

…つづき

グラマ島と具良間島

僕が大学を卒業する頃、自らの監督作品『パイナップル・ツアーズ』('92)の準備にかかった。沖縄にある架空の島を舞台にしたという内容だったので、その島に名前を付けなければならなかった。
そこで僕が思いついて提案したのが「具良間島(ぐらまじま)」である。
もちろん元ネタは、川島監督の『グラマ島の誘惑』だ(※グラマ島は「ぐらまとう」と読む)。
「ぐらま」という響きがいかにも沖縄の島にありそうな感じがしたし、漢字にすると実際にある「多良間島」とそっくりだったので、スタッフ一同、異存なくすぐに決まった。

パイナップル・ツアーズところがホントの理由は別にあった。
『グラマ島の誘惑』を見たいという思いを、この「具良間島」に託したのである。
いうなれば、ラブレターのようなものだ。
ひょっとしたら、「具良間島」という名前を付けた謂われを誰かに聞かれるかもしれない。もしくは、自分の映画を見た誰かの脳裏にそのキーワードを無意識に焼き付けることができるかもしれない。
そしたら、少しは『グラマ島の誘惑』に対する関心が世の中の一部に生まれるのでは…。
まぁ、そんな傲慢で都合のいいことは万分の一も期待をしてなかったが、僕の川島雄三に対するオマージュを、形だけも残したかったのだ。

その思いが “映画の神” に届いたのだろうか…。
『パイナップル・ツアーズ』完成直後のわりとヒマな時期というベストなタイミングで、『グラマ島の誘惑』を見るチャンスが巡ってきたのだ!

いざ、グラマと対峙!

『パイナップル・ツアーズ』の編集は東京でおこなっていたので、映画が完成した直後も試写やら関係者へのご挨拶やらで、僕や他の沖縄から来たスタッフはしばらく東京に残っていた。
そんな時期に『グラマ島の誘惑』が、浅草東宝でリバイバル公開されるという情報を入手したのである。
東京にいなければ、『グラマ島の誘惑』のようなマニアックな映画の上映に巡り会うことはまずないし、いくら東京でもそれを見るチャンスはそうそう無いだろう。
『パイナップル・ツアーズ』の他のスタッフらと休日を合わせ、みんなで気合いを入れて見に行った。

この日の浅草東宝の上映ラインナップは『グラマ島の誘惑』だけでなく、加山雄三主演の『さらばモスクワ愚連隊』('68)、鶴田浩二・三船敏郎主演の『暗黒街』('56)、武田鉄矢主演の『刑事物語5・やまびこの詩』('87)との4本立て! しかも客の入れ替え無し!
これらの作品に共通点が見あたらないので、どういう理由でこの4本立てになったのか分からないが(笑)、『グラマ島の誘惑』は最後に上映されることになっていたので、良い席をとるためにも(劇場は大入りだった)とりあえず4本とも見ることにした。
もちろん、他の3本は体力温存のために睡眠をとりながら見たので、内容をほとんど覚えてない。しかも最初の『モスクワ愚連隊』は上映時間に間に合わず、途中から見てしまった(笑)。



…さて、肝心の『グラマ島の誘惑』である。
それまで僕が見てきた川島作品のレベルが高すぎたのか、かなりチープな描き方にちょいとズッコケ〜。*Glamour_02.jpg
ギャグや芝居の調子が、ドリフのコントのような軽いノリなのである。
登場人物たちがチャカチャカと早く動き回るような「コマ落とし」処理のしょぼい演出もある。

普通ならここで期待外れに終わるところだが、実はそんな気持ちにはならなかった。
スラップスティックな群像喜劇が上っ面で展開している最中、天皇制問題、慰安婦問題など…第二次大戦に参戦した日本国に対する批判や日本人としての反省があちこちに見え隠れしており、その皮肉がボディブローのようにズシズシと心に重く響く。

そして個人的に何よりも驚いたのが、「沖縄」が重要なところで関係した内容だったのである! この作品に「沖縄」というキーワードが出てくるなんて…『パイナップル・ツアーズ』で「具良間島」の名前を付けた時には、全く知らなかった情報だ。
これは偶然か? 運命なのか?
それとも、“映画の神” のイタズラか?
いずれにせよ、「グラマ島」にあやかった自分の判断は間違ってなかったと確信した。

見終わった後は、ウチナーンチュとして、ものすごくやるせない気持ちになった。
その感情は、駄作を見た時のようなガッカリ感ではない。むしろ、その逆である。
ものすごく軽いギャグ映画を見たはずなのに、その裏にウチナーンチュとしての怒りや悲しみを感じ、それをどこにもぶつけられない、もんもんとした気持ちに陥る不思議な感覚だ。
とんでもない傑作を見たと思った。
いや、傑作という言葉とも違う。珍作…もしくは怪作とでも言おうか。
僕の場合、あの偶然的な出来事に対する特別な感情も作用しているのかもしれない。

けど、ウチナーンチュなら…そして第二次大戦に何らかの興味や思いを抱く日本人なら、是非、一度は見てほしい作品だ。
川島雄三という日本映画界の鬼才が、沖縄のことを気にかけてくれた…という事実を垣間見ることがだけでも、この体験は僕にとって宝物だと思うのである。

「ぼくとグラマと具良間島」 當間 早志