“こどもの世界”の表現主義 『トワイライトゾーン/超次元の体験』

 自主製作やインディーズ系の映画会社で活動していたダンテが、メジャー会社の製作・配給で監督が出来るようになったきっかけは、ある日ダンテのオフィスに届いた一冊の脚本だった。
 その脚本の送り主はご存じスティーヴン・スピルバーグ。スピルバーグはダンテ作品に織り込まれたマニアックなネタを気に入ったようだが、いくらなんでも気に入ったというだけでは、メジャー会社の映画を任せるわけにはいかない。そこで、まずはメジャーのウォーミングアップ的な作品で監督をさせ、それが上手くいけば、大作の監督を任せようというのがスピルバーグの考えだったのかもしれない。
 で、そのウォーミングアップ的作品というのが、『トワイライトゾーン/超次元の体験』('83)だ。

 「これは別世界への旅です。目や耳や心だけの別世界ではなく、想像に絶した素晴らしい世界への旅・・・あなたは今ミステリーゾーンへ入ろうとしているのです」

 SFやファンタジーファンなら知らない人はいないだろう。60年代を代表する傑作テレビ番組「ミステリーゾーン(原題:“TwilightZone”」の日本語版ナレーションだ。現在でも世界中に根強いファンが多いこの番組が劇場版としてリメイクされると聞いて、単純なワタクシはその情報だけでワクワクしたものだ。
しかも四話からなるオムニバス映画!
監督は『E.T.』('82)の世界的大ヒットを記録した直後のスピルバーグ!
『ブルース・ブラザース』('80)のジョン・ランディス!
『マッド・マックス』シリーズでオーストラリアの映画興行史を塗り替えたジョージ・ミラー!

 …という当時の飛ぶ鳥を落とす勢いの監督たちの中で、ダンテの名前は正直まだまだマイナーな存在だった。果たして彼らに囲まれたダンテは大作の監督にステップアップ出来るのか?という所は心配だったのだが…。

 1話目を担当したランディス以外は三人ともテレビ版のリメイクを製作することとなり、ダンテは「こどもの世界」というエピソードをリメイクした。
 テレビ版「こどもの世界」では、登場人物たちが住む町・ピークスビルだけが地球上に唯一残ったという設定がナレーションで語られる。そして、それはある“怪物”のしわざであると説明がされる。
 この“怪物”というのが、アンソニーという6歳の少年なのである。ただしアンソニーは超能力者で、自分が気に入らない人や動物を消してしまう力を持っているのだ。地球上どこにも逃げ場がないため、周りの大人達はしかたなくアンソニーに媚びへつらうような態度で暮らしているのだ。

アンソニー比較.jpg


 テレビ版は最後まで救いのないと言うか、アンソニー少年がわがまま放題する物語なのだが、劇場用にリメイクしたダンテ版では、よその街からやってきたヘレン・フォーリーという女性教師を登場させることで、設定も物語もガラッと印象を変えている。
 詳しくは描かれていないが、ヘレンは何らかの理由で教師を辞めようとしているらしい。(当初のアイディアでは、ヘレンの母親が亡くなり、教師としても人間としても生きる理由を見失った。ということが描かれる予定だったそうだ)

 ともかく、ダンテ版では、ヘレンがアンソニーと出会い、彼を救うという明るい展開を見せていく。逆にヘレン自身も教師としてやっていけると自信を持つことで、アンソニーに救われたとも言える。
 もちろんこの設定の変更は脚本を書いたリチャード・マシスンの功績だろうが、ヘレンとの交流を通してアンソニーの精神的な成長をしっかりと描いた演出は、まだ無名だったダンテの力なのである。

 とは言え、やはりダンテはダンテ。思いっきりマニアックなネタもふんだんに盛り込まれている。アンソニーの住む家には何台ものテレビがあるのだが、その全てでダンテが大好きなアニメが流れっぱなし。クライマックスではそのアニメキャラがテレビから飛び出し、実体化するという派手な特撮シーンが話題になったものだ。アニメキャラが実体化するという表現は、ジム・キャリーの出世作『マスク』('94・監督:チャールズ・ラッセル)の10年も先取りしている。


 しかし、この文章を書くために久しぶりにこの映画を見直してみて、個人的に非常に面白かったのが、“表現主義”と“アニメの世界”を並列に描いたことだった。

 表現主義とは、20世紀初頭のドイツで起こった芸術運動の一種で、現実をねじ曲げた、奇怪、陰鬱な表現が特徴だ。セットや照明などの「リアルさ」よりも、不安や葛藤といった感情を「表現」するために、あえて幾何学的に狂わせたり、歪めたりしている。映画では、ロベルト・ヴィーネ監督の『カリガリ博士』('19)が“ドイツ表現主義”の代表作だ。
 ダンテ版「こどもの世界」の中で、突然映像がモノクロになり、テレビ画面もモノクロのアニメが写っているシーンがある。非現実的な影が廊下を埋め尽くし、観客に不安な感情を与えている。一体何事かと思うと、そこにカラーの登場人物が入ってきて、実はモノクロ映像ではなかったことがわかるのだ。

表現主義比較.jpg

 その後アニメキャラが実体化し、派手な原色の(アニメ的な)照明に覆われ、カメラアングルも歪んでいくのだが、登場人物達は、果たして実際に存在するのか、それとも逆にアニメの中に入り込んでしまったのか、混乱していくことになる。
 つまり、現実をねじ曲げた“表現主義”が、“アニメの世界”の表現と非常に近いということをダンテは見せてくれたのだ。

 ではなぜダンテはその様な試みを行ったのか?
 これは想像でしかないが、ダンテがやりたかったのは、ある意味で映画の歴史を一本の作品内にまとめようとしたのではないか。
 つまりモノクロとカラー。“表現主義”と“アニメの世界”。“表現主義”と“リアルさ”。実写とアニメ。
 これらを破綻無くミックスしたダンテ版「こどもの世界」は、『トワイライトゾーン〜』の中で、映像表現としては最も野心的な挑戦に満ちたものに仕上がっている。

 さて、先に書いたように当時は派手な特撮シーンばかりが注目された本作だが、スピルバーグはこのようなダンテ独特の演出や挑戦が気に入ったのだろう。例の脚本をダンテに任せることにした。その脚本こそ『グレムリン』なのである。


トワイライトゾーン/超次元の体験 原題:Twilight Zone: The Movie
101分 カラー ドルビーステレオ
画面サイズ1.85:1(日本版DVDは1.78:1)
アメリカ公開1983年6月24日
日本公開1984年2月18日

第三話 Segment3:“It's a Good life”
監督:ジョー・ダンテ
原案:ジェローム・ビクスビー
脚本:ロッド・サーリング、リチャード・マシスン
製作:ジョン・デイヴィソン
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
撮影:ジョン・ホラ
出演:キャサリン・クインラン、ジェレミー・リヒト、ケヴィン・マッカーシー他


ミステリー・ゾーン第31話“こどもの世界” 原題:Twilight Zone: "It's a Good Life"
25分 黒白 モノラル
アメリカ放映日1961年11月3日
日本放映日1963年10月12日

監督:ジェームス・シェルドン
原案:ジェローム・ビクスビー
脚本:ロッド・サーリング
出演:ジョン・ラーチ、ビリー・マミー他

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このページは、良實が2008年7月 1日 15:41に書いたブログ記事です。

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